「誕生日おめでとう!!」





たくさんの友人に囲まれて紀美子は大好きなケーキの上にささったろうそくの火を思い切り息を吸い吹き消した。


拍手の中で満面の笑顔の紀美子はみんなにぺこぺことお辞儀をした。


「やっと20歳だね〜。これで堂々とお酒飲めるね!」


「堂々って・・・今まで飲んでなかったんだけど・・・」


「うっそぉ〜。この前飲んでたじゃん」


「いや、あれはノンアルコールのやつだから・・・」


「え〜?」


「まあまあ、これからはじゃんじゃん飲んでよ。はい、じゃあ乾杯しましょ!!」


皆テーブルに置かれていたグラスを手に取りワインやビール、サワーなどを注いでいく。


「じゃあ紀美子の誕生日を祝って、かんぱーい!!」


「「「「かんぱーい!!」」」」


「みんなありがと〜」


そして一気にグラスの中を飲み干す。


「ぷはー」


「いいね〜。久々に飲むって素晴らしいわね」


「いつもバイト三昧だもんね。たまには休みなよ」


「仕方ないじゃない。人が足りないんだから」


「私もなんとか休みをとってよかったわ。みんなに祝ってもらって嬉しい!」


「紀美子、よかったね〜」


「うん。ありがと」


「そうね、あとは紀美子に素敵な王子様が現れればいいんだけどね〜」


「え〜たぶん一生無理だよ」


「そんなことないわよ。ねぇ」


「うんうん。すぐに見つかるよ」


「ほら、紀美子の好みを言ってごらん」


「え〜好み?」


「うん、気になる気になる!!」


「そうだな〜。まず私より背が高くて、ルックスが良くて、頭が冴えていて・・・優しくて思いやりがあって、いつでも私の事を考えてくれて・・・・・・」


「「「理想高いな〜」」」


「にゃ〜・・・」


がっくりとうなだれる紀美子。


「現実は厳しいわよ。絶対そんな完璧な男いないわよ」


「・・・白馬の王子様」


「え?」


「私は白馬の王子様に会いたいの!!」


「「はぁ!?」」


「だって、白馬の王子様!!」


「ちょっと、ちょっと紀美子?っておい、いったい何杯飲んだの?」


「ねぇ、今気づいたんだけどワインが2本空いてるよ?それに瓶ビールも4本!!」


「え、私達そんな飲んでなくない?」


そう言って友人達はじっと紀美子を見た。


「ん?何・・・」


そう言う紀美子の手にはしっかりと瓶ビールが握られている。


そしてそれがぐいっとグラスに注がずに口へと・・・


「紀美子、紀美子ってば!!」


「飲みすぎだよ!やばいよ」


「んなことない!もっと、もっとぉ〜」


紀美子は空いた瓶ビールを振り回す。顔は真っ赤。完全に酔っている。


「こんな紀美子見たの初めてよ・・・。大丈夫かしら」


「・・・いや、もう無理だと思う」





バタン





そして紀美子はその場に倒れこんだ。


すごいいびきをかいて。






「今日はホントに私の誕生日のお祝いしてくれてありがと〜ホントにありがとね〜」


へろへろな笑顔で皆に手を振った。少し酔い気味の紀美子だが家に帰るときかないので、一人見送りをつけて途中まで送ることに。


「こうなるなら美紅(みく)んちじゃなくて、紀美子のウチにすればよかったね」


苦笑いで言う楓香(ふうか)。


「・・・ごめんね。楓香に迷惑かけちゃって」


「あれ?紀美子」


「もう、大丈夫。酔いは醒めたわ」


そう言って紀美子は楓香の手を自分の肩からはずした。


紀美子は楓香より一歩前へ進み、楓香に言った。


「ねえ、私はちゃんとこの地に立って生きてるよね?」


「??」


紀美子の唐突な質問に楓香は戸惑った顔をした。


「私たちは生きている。自由に。私は20年生きたんだ」


「紀美子?何を言っているの?」


「楓香、ありがと」


紀美子はそう言ってニコリと楓香に笑みを見せると、そのまま走って行ってしまった。


「き、紀美子!?」




紀美子を追いかけられず楓香は片手を伸ばしたまま、紀美子の背中を見送った。




ただ呆然と。わけもわからず。









鼻歌を歌いながら紀美子は大通りの歩道を歩いていた。


もう完全に酔いは醒めている・・・というかもともと紀美子は酔っていなかったようだ。


しっかりした足取りで自分のマンションへと向かっていた。


神下紀美子は某大学の2年生。とある田舎から都会近くの大学へ来て、今では一人暮らしをしている。


友人もでき、毎日楽しく学校生活を送っている。


今日も紀美子の誕生日ということで友人が集まってお祝いをしてくれた。


「ホントにみんな、こんな私にかまってくれるなんて」


うふふと半分照れたように紀美子は笑い、手からぶら下げている紙袋を見た。


みなが紀美子に渡したバースデープレゼントだ。


中身は紀美子の大好きな洋服ブランドのアクセサリーと時計だ。


紀美子のお気に入りでみなそれを知ってお金を出し合い、買ってくれたのだ。


紀美子は涙が出そうなほど喜んだ。







「20歳になったからには大きなことを一つ!」


「紀美子すごい意気込みね。何をするの?」


「今年こそ絶対に彼氏を作る!」


「「「おお〜!!」」」


みなの驚いた反応。


「何よ、その反応!」


「いいじゃんいいじゃん。で?何かつてがあるの?」


「・・・ないよ。自分で探す」


「うおう」


「じゃあみんなにお願い!」


「じゃあ好みを言ってみてよ」


「それはみんなに言ったじゃない」


「白馬の王子様!?」


「紀美子マジで?」


「今年中には絶対に見つけてみせるぞ!!」


「・・・・・・」


すごい気合にみなは唖然。ホントに1年間の間にそんな理想的な人物と出会えるのだろうか・・・。


だが、紀美子のいつになく真面目な表情にみなは応援するしかなかった。






白馬の王子様なんて夢のまた夢、現実に考えればそんな人物はいないことはとてもよくわかってる。


おとぎ話の上でしかなりたってないことぐらい。


でもせめて夢を見させてほしい。


白馬の王子様に近い存在が現れてくれたら・・・。







「絶対に彼氏作ってやる。理想の彼氏!絶対に・・・」


紀美子は一人帰路で呪文のように唱えながら歩く。


強い決意を持った20歳の誕生日。紀美子はその決意を胸にこれから生きていく・・・・と言う矢先だった。


車道でものすごく大きなクラクションの音、そしてすさまじいブレーキ音。




「え・・・・・・」




紀美子が顔を上げたとき、目に眩しい光が入り込んできた。


思わず目の痛さに思い切りつぶり立ち止まってしまった。


声を出す暇もなく、次の瞬間、たくさんの量のガラスの割れる音が街の中に響いた。








つづく