暗闇に続く先にある光は 月の路



誰もが行ける訳じゃない



暗闇を彷徨い歩き  見つけられるのか?



新しい路を 新しい明日を・・・・・・・





























――――あれ?ここって私の部屋よね。




















紀美子が起きたところはいつもと変わらぬ自分の部屋のベッドの上だった。


周りを見渡してみるがまだ暗いことから夜は明けていないようだ。





――――あれは・・・夢だったのかしら?





紀美子は目を閉じてみた。交差点に向かった辺りで暴走車が自分にライトを思い切り照らしながらクラクションと共に向かってきたところ・・・


キキーッ!!

「キャー!!」




車のブレーキ音が紀美子の耳に響いてきて、思わず両手を耳に思い切り当ててふさいだ。

だが、自分の部屋に車がぶつかってくるはずもなく、それはただ自分の頭に響いていた想像音であると気づいた。








なぁんだ。やっぱ夢か。なんかすごく悪い夢だったな。飲みすぎたせいかな。








どうやら玄関に荷物を置いて、そのまま服も着替えずベッドに倒れこんでしまったらしい。


やれやれと自分に慰めるように、頭に手を置いた。


「?」


そこで紀美子は手に生暖かい液体の感触がした。


手を離して、恐る恐る見てみると・・・・・・手にはべったりと紅黒いものがついている。


カーテンの隙間から月の明かりが差し込んで、手にあたった。








これは間違いなく・・・・・血だ。








「な、ナニコレ・・・」


紀美子はフラフラと立ち上がり、そのまま洗面台へ向かった。


電気をつけ、鏡に自分の顔を映す。





「っ!?」





言葉を失った。


紀美子の顔半分が血液で真っ赤に染まっている。頭から流れているようだ。だが、痛みはない。


ただ暖かい感触が頭部から流れ、顎まで伝っている。


紀美子は急いで蛇口をひねり、何度も顔を洗った。赤く染まっていく洗面台。それでも構わず紀美子は洗い続ける。
























「それじゃあ・・・だめだな〜」
























紀美子の頭にそんな声が響いてきた。

























「それじゃあ〜いくら洗っても落ちないよ?」






















「!?」


紀美子はその言葉に顔を上げる。


鏡には変わらず紅く染まったままの自分がいる。






「なんで?いくら洗っても洗っても落ちないなんて・・・どうかしてる!どうかしてるわ!!」






















「どうかしてるのは君だよ」


















「誰なの!?」


頭を抱え、紀美子は叫んだ。やはり頭に流れてくる声は自分の想像ではない、違う別なヤツがいる。


落ちない血の恐怖で頭がおかしくなっているのか?それともまだ自分は夢を見ているのか・・・。









だが、その次の瞬間。










つけていた電気がバチンという音と共に消えた。


辺りは暗闇に包まれる。


「何?何なの!?」


紀美子は壁伝いに洗面所から部屋へ戻った。


そこで紀美子は唖然とした。





















自分の部屋がない。






















先ほどまで寝ていたはずのベッドも、ベランダへと続く窓にかかっていたカーテンも、自分の荷物も・・・。


全て跡形もなく、ただ床はフローリングが広がっている。


「ど・・・どうして?」


何が起きたのか全く考えられない。目の前の現実にただただ言葉を失うだけだ。


透き通った窓のガラス越しに、満月が見える。


光が部屋に射し込み、紀美子の足元まで照らしている。


そこで突然、バサっと音がした。


月の光を遮断し、黒い影が何もないフローリングに映る。


































「君はもう死んでいるんだよ?神下紀美子・・・」




























紀美子の頭で響いていた声が今度ははっきりと耳から入ってきた。











シンデイル?ワタシガ?ドウカシテイルノハワタシ?









紀美子は顔を上げ、その黒い影の先を見る。月の光に邪魔されて顔は見えないが、体格のよさや髪形で男であると判断した。


「誰?アナタハ・・・・・・」


紀美子は自分自身が震えていることに気づいていたが、ありったけの勇気を胸に、声を出した。


男はそんな紀美子に構わず窓をすんなりと開け、フローリングの床へ足をつけた。


男はクククっと笑いながら言った。



「俺か?俺は死神・・・お前を迎えに来たぜ」


「!?」




シニガミ?




よくオカルトの話で出てくる死神って、黒い布服を着て頭にフード被って骸骨の顔をしていて、大きな釜を持っているイメージなのに・・・全く違う、黒いパーカーを着ていてフードを被り、顔は見えないもののひざの擦り切れたジーパンをはいていてどこにでもいそうな普通の男にしか見えない。


ここでなぜか紀美子は恐怖が解けた。


「ちょっと。勝手に部屋に入ってこないでよ!」


そんな言葉を自然と口から出していた。


「不法侵入で訴えるわよ!私は今あんたを相手にしているところじゃないんだからっ」


「・・・・・・オイ、俺は死神だぞ?」


先ほどまでと違って、死神の声から全く怖さを感じられなくなっていた。


というか、もう紀美子はヤツを全く死神だと思わなくなったようだ。


「だから何よ!人んちに気軽に入って来ないでよね。出てって!!」


「・・・・・・オイオイ。お前マジで言ってんの?」


「ハア?」


「ハアじゃねーよ。」


「だって普通、人んちに入ったら不法侵入で警察に訴えるでしょ!ワタシはまだ優しいから見逃してあげる。だから出てって」


腕を組んでぷいと横を向く紀美子。


なんでこんなわけのわからないことが自分の身に起きているのに、更にいきなり訳のわからない男が来て訳のわからないことを言い出すのか・・・。


紀美子はどうやったら夢から覚めることができるのか・・・とそればかり考えていた。


「わかんねぇヤツだな・・・」


死神はそんな紀美子の様子に溜息をつきそう言うと、紀美子の目の前から姿を消した。


「あれ?」


紀美子が気づいたときには、一瞬にして紀美子の背後に回っていた。


そして紀美子の首には大きな鎌が突きつけられていた。


「キャ!な、何すんの?ワタシ、金目のものなんか一つももってないわよ!!」


「それでも信じないってわけか?」


紀美子は顔を男の方へ向けた。ちょうど、自分の右肩の上ぐらいから男は紀美子を見下ろしている。


月明かりに照らされ、男の顔がはっきりと映し出された。


「・・・・・・」


紀美子は声を失った。


男はニヤリとし、紀美子に言った。


「どうしたんだ?俺をやっと死神だと認めたのか?」


「・・・キテル」


「なに?」


紀美子がボソリとつぶやいたことを気づき、男は聞き返した。


紀美子は黙ってじっと死神を見つめている。






「・・・・・・」




「・・・・・・」


そこで少し沈黙が続いた。





いったいなんだってんだ?コイツの考えていることがさっぱりわからねぇ。


バシュン!!


その時、何かが弾けたような音がして目の前が一瞬煙に覆われた。


「な、何だ!?」










つづく。