オリジナルサスペンス

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第8話













パシャっ、パシャっ





たくさんのフラッシュが精神科の診察室でたかれる。警察が現場検証をしているのだ。


「えーっと、某株式会社の社員、花本ルリコ。年齢は……不詳?なんだそりゃ?……自らこの部屋に侵入し、首の動脈を手にしていた小型ナイフで刺し、大量出血のため死亡。そのときここにいたのが…あなたですね?名古賢人さん。」


一人の刑事が警察手帳を見ながら、賢人にペンで指しながら言った。


「はい…、そうです。」


「しかし、返り血を浴びたと言ってましたが、今のあなたはずいぶんときれいですな?」


「いや…あのですね。そのとき白衣を着ていまして、血は全てその白衣にかかったんです。そして手についた血などは洗ってしまったんですね。」


「はあ…なるほど。で、この女の人が入ってきたのはいつごろですか?」


手帳にメモをしながら淡々と質問をする警察。


「えー、もう日が暮れる頃でしたので四時半過ぎですね。今は日が短いので多分そのぐらいだと…。」


「それでですね…、あなたは通報するのが一時間も遅かったですよね?それはなぜなのですか?」


「…ええ、実はこの女の人が私に、言ったんです。『私はあの人を殺した。』と、それで急いでその人のもとへ……。」


「ほう…。」


「…え?それってもしかして…?」


陽奈は警察の人がメモしている横でそうつぶやいた。


「……俺は自分が血を浴びた後に、もしかしたら都さんがこの女に刺されたんじゃないかと思いまして…。」


警察は『都さん』に反応し、手帳からペンを離し、顔を上げた


「…都さん?ああ、あの公園で殺された関野真さんの彼女ですか?」


陽奈は驚いて、警察の顔を見た。見た事がある顔だ。


「え…?もしかして、あの時の警察の人?」


「あ、あなたは木上陽奈さんですね?あの時、私から逃げるように都さんを連れて行った……。」


ペンで陽奈を指しながらニヤリと笑う警察。その顔に腹が立ち、陽奈は強く言った。


「あの時は逃げたんじゃなくて、由理のことを考えてですねぇっ!!」


そう、今日現場に来たこの警察の人は由理のマンションに来たあの警察だったのだ。


「まあまあ、そんなに怒らずに、あの時は私も悪いと思っていますよ。でも、忘れないうちにいろいろ聞いておかないと、あとで困りますからねぇ。」


頭をかきながら、その人はそう言った。


「日斗警部!調査が終わりましたので遺体を運びます…。」


鑑識の人がその人に話しかけた。どうやらその刑事は日斗と言うらしい。


「ああ、ご苦労さん。それから、凶器のナイフやその…血だらけの白衣など署に持っていってくれ。」


「はっ!わかりました。」


そして、警察の数が減った。


「では続きを…。」


ふと、警部がそう言いながら二人の方へ向くと陽奈しかいない。


「あっ!名古さんは?」


「え?賢人?」


室内にはいない。陽奈もいなくなったことに今気づき、慌てて周りを見渡す。


「じゃあ、名古さんが来るまでに木上さん、あなたにお聞きしますよ。都由理さんについてですが……。」


陽奈は花本ルリコと由理の関係について話し始めた。


「由理は、花本ルリコに入社当初からいじめを受けていました。毎日自分の仕事を押し付け、嫌味を言ったり、変なうわさを流したりと、由理は精神的に参ってしまったときがあり、病院に通っていました。そのうち、同じ課である真くんに助けてもらったりして、ルリコを別の課に移動させ、いじめはなくなったのですが……そのうち真くんと由理が付き合うようになって、ルリコがまた現れましたね。」


陽奈はそれを思い出し、ため息をつく。


「うーん、なるほど。花本ルリコは年齢不詳……か。」


警部はしっかり『年齢不詳…』とメモを取った。


「いや、私の話に関係ありませんよそれ…。」


陽奈がそのメモを見て、思わずツッコミを入れた。





ガラッ。





ドアが開き、賢人が戻ってきた。


「賢人…どこに行ってたの?」


「ああ、ごめん。トイレに行きたくなっちゃって。」


「急に出て行かれては困ります。事情聴取の途中なんですから。」


「すいません。話の続きをしますから…。」


陽奈は賢人の顔から汗がにじんでいることに気づいた。


「では、都さんのところへ行ったあなたはどうしたのですか?」


「はぁ、入り口のところまで来たのですが、ちょうど陽奈さんが来たので都さんに会っていませんが…。」


「はー……木上さんがねぇ。で、都さんの様子はどうだったのですか?木上さん。」


「え?ああ、由理は私が行ったときぐっすり寝ていました。」


「では都さんには何もなかったということですな。」


賢人は警部の言葉にうなずく。


「……では今日の事情聴取はこれで。あ、後で署のほうに来てもらうことになりますがよろしくっ。」


警部はパタンと手帳を自分の顔の前で閉じ、二人の顔をよく眺めた。


「花本ルリコの年齢不詳……私はその謎を解いてみせる!」


そう言い残して帰っていった。


しばらく二人はぽかんと口をあけたまま、警部が出て行ったドアのほうを見ていた。


「……あの警察の人、大丈夫なのか?」


「…さあ。初めて会ったときと印象が違うわね……。」


「花本ルリコって年齢不詳なのか?」


「うん、そうなってる。みんな知らないわ……。」


「……。」


「どうしたの?」


「いや、なんでもない。」


陽奈は思い切って聞いてみた。


「それよりさ、なんで賢人は由理のところへ来たの?花本ルリコは『あの人』しか言ってないじゃない。それでなんで由理なの?」


賢人は陽奈を見た。陽奈はドキっとした。賢人は少し経ってから口を開いた。


「……勘ってヤツ?」


「へ?そうなの?」


賢人の言葉があまりにも意表を突いていたので力が抜ける。


「そうだよ。真のこともあるし、もしかしたらと思ってね……。」


「そう…それならいいけど。」


陽奈はそう言ってうつむいた。床には花本ルリコが倒れていたところにテープがはられ、まだ飛び散った血の跡が少し残っている。


賢人はゆっくりと陽奈に近づき抱きしめた。


「え?賢人?」


陽奈はびっくりして賢人から離れようとしたが、動けなかった。


「陽奈…俺……。」


「……私のこと名前で呼んでる?」


「だめか?」


賢人の顔が近い。陽奈は賢人の瞳にどきどきしてしまう。


「ううん…だめじゃないよ……。」


そう言ったとき、ついに唇が合わさってしまった。


「んっ!?」


陽奈は目を開けたまま、ただ驚くだけだった。


賢人はそのまま陽奈を近くの診察台に倒した。賢人の唇が離れ、賢人の顔を見るなり言った。


「冗談でしょ?賢人?」


すると、賢人は笑顔で答えた。


「俺は本気だよ。陽奈……。」


「え!だって…」


陽奈は何か言おうとしたが、また口を賢人の口でふさがれてしまった。


もう力が抜け抵抗できない。賢人はゆっくりと陽奈の耳元でささやいた。


「陽奈……好きだ…。」


陽奈はその言葉を聞いてゆっくりと目を閉じた。


そして賢人の背中に手を回し、自ら唇を重ねた……。



to be continude...