オリジナルサスペンス
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第7話
「何かあったの?」
陽奈は何かありそうな気がして怖くなってきた。
「……。」
賢人は黙っている。
そして精神科の診察室の入り口に着き、賢人は鍵を開けドアを開いた。
陽奈は賢人に続き部屋に入る。
「!!」
陽奈の血の気が一気に引いた。
陽奈と賢人の目の前には血みどろになった黒装束の人間の死体が転がっていた。
そして周りもあちこち血が飛び散っている。
賢人が座っている椅子にかかっている白衣も真っ赤になっている。
「……。」
賢人は黙ったままだ。
「ちょっ…ちょっと……。」
陽奈は震える手で自分の前に立つ賢人の腕をつかんだ。
バッ!
賢人はそれを振り払い、死体に近づき、死体の顔にかかっている黒いフードみたいな布をめくった。
「いやあっ!!」
陽奈は叫んだ。
黒いフードをめくったその顔は青白く、目が開き、血で半分真っ赤に染まっているが、見覚えのある顔…。
「…木上さん、この人知っているね?」
陽奈はもう恐怖で声を出すことができなかった。
震える体を抑えようとしゃがみこんだ。
賢人は陽奈に近づきながら、静かに言った。
「なあ……俺が殺したように見えるか?」
「・・・・っ!?」
陽奈はハッとして賢人の顔を見た。
賢人の顔は今までになく恐ろしく、目が血走っていて、口が笑っている…。
「ううっ!!」
陽奈は自分に近づいてくる賢人から逃げようと、上手くいうことをきかない体を無理矢理動かし、ドアへ這うように進む。
ガチャ…ガチャガチャ!!
しかしドアにはいつの間にか鍵が…。
「ん…ううっ…」
必死で開けようと取っ手を引っぱる。
「無駄だよ…俺しか鍵は開けられない……」
その瞬間、賢人は陽奈の片足を強い力でグイッと引っぱった。
「いやあぁぁっ!!」
陽奈はそのまま引きずられていく。
そして賢人が死体の脇まで陽奈を引きずっていったとき、賢人は陽奈の上に乗りかかってきた。
「やめてっ!いやあ!賢人っ!!」
必死で手を振り回し抵抗する。
賢人は陽奈の両腕をつかんで抑えた。
陽奈は自分も殺されると思い、恐怖で抵抗することもできなくなり、グッタリとしてしまった。
―――ああ…もう…賢人に殺されるなら………
「・・・・・・・!?」
賢人は陽奈の変化に気づいた。
「…よ…陽奈?」
陽奈はもう動かない…。
賢人がつかんだ陽奈の手がどんどん冷たくなっていくのを感じた。
「うああっ!」 ドンッ!!
自分の今起きている状況に驚き、慌てて陽奈の手を離し、陽奈を突き飛ばした。
「う…うう……」
ドアの方に突き飛ばされ、陽奈はうめき声をあげた。
そして壁に打った背中を抑えながら賢人の方を見た。
賢人は血みどろの死体の脇で頭を抱え座り込んでいる。
「け…賢人?」
「俺じゃない、俺じゃないんだ!」
賢人は強く頭を抱え、震えながら叫んだ。
陽奈はなんとか起き上がり、死体を恐る恐る見返す。
ウェーブのかかった茶色い髪…キツイ目つき……。
「花本ルリコ……?」
そう、その死体は毎日由理にわざとらしく嫌味や悪口を言い、真に言い寄っていた年齢不詳の女、花本ルリコだったのである。
「賢人…この人、私と同じ会社の……。」
「ああ……。」
「え?知ってるの?」
「…いや、知らないよ。」
賢人は落ち着いてきたらしく、ゆっくりと立ち上がった。
陽奈は賢人の様子を気にしながら、元のようにルリコに黒い布をかぶせた。
「この花本ルリコは年齢不詳、とにかく嫌な女よ…。」
「へぇ……。」
「ところで…なんですぐに警察に連絡しなかったの?」
「ああ…忘れてた。警察か…。」
賢人は今気づいたように、受話器を取って警察に連絡した。
(なんで、警察に連絡する前に由理のところへ来たの?)
陽奈はそれを聞けなかった。
なぜ聞けないのか自分自身でもわからなかった。
to be continude...