オリジナルサスペンス

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第12話













「由理…。」


言葉に反応し、由理はゆっくりとベッドから起き上がった。


「ん……、陽奈?あれ、会社は?」


「今ちょっと休み時間をもらったの。どうしても由理に聞きたいことがあって。」


次の日、陽奈は由理のもとへ仕事の合間をぬって来たのだ。由理はまだ病院にいた。


「そうなの……。ごめんね、会社にも行けなくて。」


「大丈夫、先輩に言っておいたから。先輩もわかってくれたよ。由理、早く回復できるといいね。何か食べなきゃだめよ。」


「うん、ありがと……。」


由理はそう言ってうつむいた。


「それでね、悪いんだけど、事件の起きたときの日のことについて話を聞きたいの。」


「え……?事件?」


「うん、事件というか、あの11月1日の夜、どこにいた?」


「1日?……その日は……。」


「ごめん、由理。やっぱりいいや。ごめんね。」


陽奈は由理の様子を見て聞くのは無理だと感じ、そう言った。


「陽奈……?」


由理は陽奈を見た。陽奈は軽く微笑んだ。


「今はゆっくり体の回復を待って。また来るから。」


陽奈はそう言って、由理に背を向けた。


「……私、憶えてないの。」


陽奈は振り返った。


「私……、どうやってあの公園からマンションに来たのか……憶えてない……。」


由理はぽつぽつ話し始めた。


「あの日、ベンチでゆっくり座って雪が舞うのを見ていたの。でもいつの間にか気がつけば自分のマンションの……ベッドで……。」


「え……?気がつけば……?」


「それから次の日、家に帰ったらキッチンが血だらけだった。包丁が……。」


由理はそのときの様子を思い出していた。


「由理、ありがとう。もう大丈夫、わかった。もういいよ。ほんとにごめんね。」


陽奈はシーツを握りしめ、震える由理の手をそっと抑え、優しく言った。


しかし、次の瞬間、由理の口から意外な言葉が出てきた。




「陽奈……。そこに名古くんが……。」




由理は意識が途切れ、そのままベッドに倒れてしまった。


「え…由理?由理?」


陽奈は驚いて由理をゆすった。


しかし、由理をよく見ると寝息を立てている。


「寝たのか……。」


陽奈は安心してゆっくりと由理の頭を枕に乗せた。


「賢人…が…?」


そして由理の顔をよく眺め、その場を後にした。








「え?いいのか?勝手に入っちゃって。家宅侵入だぞ?」


「大丈夫です。私は鍵をちゃんと持っているんですから。」


「そういうもんじゃないだろ。本人に許可を取っていないのに鍵まで持ってきて……。」


ガチャッ


「開きましたよ。」


陽奈は警部の話を聞かずに、由理の部屋へと入っていった。


「おいおいっ!」


警部は仕方なく後を追い、部屋に入った。


「実は私があの日に由理の部屋に入ったときは、鍵が開いていて入れたんです。由理はそのときベッドに普通に寝ていた。でも……。」


陽奈はそう言いながら、キッチンへ向かった。


キッチンはいつもと変わらずきれいに整理整頓されている。


陽奈はキッチン下の棚を開けた。ドアのところに包丁入れがありきちんと包丁が差し込んである。


「警部さん、お願いします。」


陽奈はそう言って警部を見た。


日斗警部はしぶしぶ持っていたかばんの中から、手袋と何か液体の入ったスプレーの容器を取り出した。


「いいの?知らないよ俺はぁ。」


「いいから早く調べてください。」


警部はしぶしぶ手袋をはめ、その溶液を包丁に向かって吹き付けた。


すると一瞬にして包丁は青白い光を放った。


「!?」


日斗警部はびっくりしてその溶液を落としてしまった。


垂れた溶液が床にも反応をし、青白く光っている。


「そんな……。」


陽奈はあまりのショックにそれ以上口に出せなかった。


青白く光っているのは間違いなく薬品に反応している証拠。血である……。


「どうして…こんなばかなっ!」


警部はそう言い、溶液をあたりにぶちまけた。


するとキッチンの辺りほとんどに血の跡が表れた。


「そう……か……。」


陽奈はそれを見てそうつぶやいた。








その頃、由理の病室では賢人が由理と話しをしていた。


「今日はご飯を食べてくださったようですね。毎日ちょっとでもいいですから、口に運んでいってください。」


「……今日、陽奈が私に言ってくれたんです。今は体を回復させることが大切だって。それを聞いて一口でもと思ったので。」


「それはいいことだ。仕事もしばらく休んでも大丈夫のようだから安心して……。」


ふと由理を見ると、目から涙がこぼれている。


賢人は由理の手をしっかりと握った。


「ごめんなさい。何だかあの時のこと思い出しちゃって……。私は真に何もして上げられないし……。」


「大丈夫、もう何も心配することはないよ。由理さんはよく真に尽くしてくれたよ。真もそれを知ってる。大丈夫だよ。由、理、さ、ん……。」


「名古くん、ありが……と…う……。」


由理はそのまま寝てしまった。


賢人はゆっくりとベットに由理を寝かせ、優しく布団をかけた。


「効いているみたいだな。由理……。もう少しだ……もう少しだね……。」


賢人はニヤッと笑い、由理の耳元に何かを囁き始めた。



to be continude...