オリジナルサスペンス

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第1話














今日は10月29日。


冬に近づき、寒さも増してきた。今日は朝から氷点下になり特に冷え込んでいる。






「都くん、ここの企業には問い合わせしたか?」


「はい、キチンと了承を得ました。このまま資料を送るだけです。」


「そうか、よし。この企画もいい方向に進みそうだ。」


「よかったですね。関野課長。」





ある会社に勤める都 由理。


由理は真面目で、美人な働き者のOLで、会社中の注目の的である。


肩ぐらいまであり、緩やかなウェーブのかかったサラサラの黒い髪。


スタイルもよく、モデル並みの足の長さである。


そのうえ、頭もいい。誰もが憧れる完璧な女である。





「あぁ、ありがとう。…そうだ、ちょっとこれを後で見て。」


由理はこっそり一枚の紙切れを渡された。


「何ですか?」


今話している由理の相手は、関野 真である。


会社の中で唯一若い課長で、仕事を完璧にこなし、人付き合いもよく、会社内で特に女性に人気である。


真はこそっと由理に言った。


「その紙はデスクに戻ったときにでも見てくれ。…そうだ、今日はおいしいものでも一緒に食べに行こう。」


「えぇ〜ホントに?」


「あぁ、おいしいお店を見つけたんだ!」


「ありがとう。」


由理は笑顔で答えた。


「……と言うことで、しっかり仕事を続けてくれっ。」


頭をかきながら顔を赤くしている。


「はいっ。わかりました。」


ニコッとして、デスクに戻った。


その後すぐに真から渡された紙を広げてみた。


『11月1日は特別な日だから是非予定をあけていて欲しい。大事な話があるんだ。 真より』


由理は思わず真のほうを見てしまった。


真は紙の事が気にかかっていた様子で、チラチラ由理のことを見ていた。


目が合ったとき、真に軽くウインクをしてみた。




(わかったよ、真!)




それを見て真は、顔が真っ赤にしてパソコンに隠れてしまった。


由理はそれを見て吹き出してしまった。







実はこの2人は付き合っているのである。







「ちょっとぉ。あなた課長にまた色目使ったんでしょ。」


「えっ!?」





あわてて振り返ると由理に目の前にいきなり登場。花本ルリコだ。


さっきの様子を見ていたらしい。


「あなたって自分の立場、全くわかっていないんじゃない?自分は美人でちょっと仕事ができるからってイイ気になって。調子に乗るんじゃないわよぉ!!」


「いえ、そんな私…イイ気になんかなってません。」


「なってません?はぁ?そうやって口ごたえするからイイ気になってるっていうのぉ!」


由理に顔をぐっと近づけ、自慢(自称)のウェーブのかかった茶色っぽい髪をかきあげ、睨んだ。


キツイ香水が臭う…。


ルリコは、この会社一プライドが高く、自己中な女である。ついでに年齢不詳。


「……。」


あえて由理は何も答えず下を向いた。


「フン、まぁいいわ。みんなにちやほやされるのも今のうちだけだしぃ〜。」


妬ましくそう言いながら、由理から離れ真のもとへ行ってしまった。


「この書類でいいですかぁ?私よくわからなくてぇ。」


真に書類を出し、ぶりっ子のような声を出している。


「あのぉ、ここの部分なんですけどぉ。」


真が嫌そうな顔をしてもお構いなしだ。


しかし真は書類に目を通して言った。


「……君、課が違うだろ?」


「あらーやだぁ、つい大好きな関野課長のとこにきちゃったぁ。ごめんなさーい。」


大好きという言葉を強調して言い、ルリコはわざと由理の傍を通って出て行った。


ルリコはどうやら2人の関係を知らないようだ。





「あんな女ってホント嫌よねぇ。」


由理の隣のデスクから小声で聞こえる。


「陽奈ぁ〜。」


由理は半分泣きそうな顔で隣のデスクのほうへ向いた。





由理の隣のデスクで仕事をしている人は、由理と同期の木上陽奈である。


大学から一緒で、気が合い、何でも話せる中である。親友同士で同じ会社に就職できたのはかなりラッキーだねぇ。


陽奈はとてもさっぱりした性格で由理のよき友である。


軽くピンパーマのかかったショートの濃茶の髪が妙に似合う。





「しかしあの花本ルリコって謎よね?こないだまで田中くんがいいって言ってたくせに、今度は課長狙いかよぉ。真くんも大変だね。あれ?田中くんじゃなくて塩端くんかな?鈴木くんだっけ?なんだか手当たりしだい……あれ、由理?」


「うぅ…しかもここに入ったときからどうもあの人私に何かしら突っかかってくるのよね。とても怖くてさぁ。」


「またそんな顔してると、由理に憧れてる女の子達に幻滅されちゃうよ。」


「えぇ〜?別に誰も私に憧れなんて持たないわよ!」


「いいえ。私は間違いなくあなたに憧れており尊敬しています。」


「…そうなの?それは初耳だったわ。」


「えっそう?」


「でも、私も陽奈に憧れを持ってるわ。彼氏なんて今密かに人気の医者でしょ?」


「えっ、ちょっと勝手に彼氏だなんて言わないでよ。そんなんじゃないって。私と賢人は…。」


「はいはい、昔から一緒に飲んでる仲間でしょ?そんなの一緒じゃない。」


「えっ、今何と?」


「毎日2人で飲みに行ってるんでしょ?付き合ってるのと同じなもんじゃん。」


「ちがうよっ!!」





―――ガッターン





思わず陽奈は叫び立ち上がった。


(はっっ!?)


みんなの注目を浴びてしまい、そのまま沈没…。









なんとか退社時間になった。


「ちょっとどうしてくれんの?今日は、メチャメチャな日になっちゃたじゃん!」


陽奈はほっぺをふくらませ、由理に言う。


「ほんとごめん。今夜お詫びをするからさぁ。今から真と夕食するんだけど一緒にどう?」


「そんなの2人の邪魔しちゃうじゃん。」


「だから、名古君も呼んで四人で食べない?」


「えっ?なんで賢人なの?」


「真もいるんだし、小さな同窓会ってことで。私もしばらく会ってないし。いいでしょ?」





名古賢人は真の親友であり、某有名病院の精神科医をしているエリート医師である。


陽奈と時々、会って飲むぐらいで真と由理が付き合うようになってからは全く会っていない。


真も快く了解し、四人で会うことになった。由理は久々に賢人と会うのが少し楽しみだった。









三人が約束していた店に行くと、すでに賢人は席を取って待っていた。


「おぉ、ひさしぶり真!」


笑顔で迎える賢人。由理はそれの笑顔を見て鼓動が早くなった。


久々に会った緊張か?自分でそう思っていたが、何か違う感じがした。


「都さんも相変わらず美人だね。変わってないよ。」


賢人は由理を見てそう言った。由理は心臓がさらに早く鼓動を打ち始め、顔がみるみる赤くなっていった。


「どうしたの?由理?」


陽奈の言葉にハッと我に返った。


心臓の鼓動もまだ早いが落ち着いてきている。


「あ、ごめん。大丈夫。久しぶり名古くん。」


そう言い、由理は何だったのだろうと思いながら、胸を押さえ、席に着いた。


その夜、四人は楽しく昔の話で盛り上がった。









これが四人で集まる最後の日だとは知らずに……。







to be continude...