今日は、一日が長かった・・・。

せっかくの休みに朝から萌に起こされ、店を開けたと思ったら焔のダンスレッスンを始めるし・・・。

暇だからと思って外へぶらぶら出かけたところでヘンな女性に体当たりくらって病院送りになるし・・・。

さらには萌が私のことを変態扱いしていたことに物凄いショックを覚えたし・・・・・・今日一番のダメージじゃないかコレ。

はぁ・・・本当に今日はもう帰らせてくれよと思ったところで何この状況!!

外から店内を覗いているのを人を発見しちゃったよ。

これは声をかけてヤバそうならすぐに警察に連絡できるようにしておくべきだな・・・。


私はケータイを握り締めたまま、思い切って声をかけてみた。


「おい!そこで何してんだ?」


私の声に驚いて、店内を覗いていた奴がこちらを向いた。


なんだ、女性じゃないか・・・ん?


「っっ!!?」


「あっ!」


その人物を見て、私は思わず声を上げた。


メイド喫茶を覗き見していた人は、私に体当たりして病院送りにした女性だったのだ。











「メイド喫茶へようこそ!」(仮)

第4話













「な、何をしてるんですか?」


私の登場に、女性は完全にうろたえている。私にもう2度と会うことはないと思っていたような顔だ。


「あ、え?いや・・・その・・・」


口でモゴモゴと言いながら頭に手を置いて俯く。どうやら気が動転しているみたいだ。


「今日は休みだと言ったはずですが・・・あなたまさかコソドロ?」


「ち、違います!違います!!ちょっと聞いてください」


コソドロの言葉に反応したのか、荒げた声を発した。


「はぁ?」


「いや、店のオープンの確認をしようと思ってたまたま来てみたら、中に人がいる様子だったので、話でも聞けたらと思って―――」


「覗きをいていたと・・・ヘンタイ?」


いくらライターの人でも、あんなガラスに張り付くように見ている人はいないだろうって・・・。どんだけの執念を持ってるんだか・・・。


「ヘンタイだなんて!!私、何もしていないですよぅ!!」


「いや、のぞきしていたろ・・・」


彼女の大ボケに私がそんなツッコミをしたときだった。





「あ・・・」





女性が私の立つ後ろの店のドアに目線をむけた。


カランと店のドアの開く音。


「え?も、萌?」


振り返ってみるとすごい剣幕で睨み付けてくる萌の姿があった。


「こんなところで何してんの!!」


「な、何してんのってこの女が・・・」


指をさして見ると、女性は萌を見て金縛りにあったように固まっている。


「え・・・?ん?」


私が疑問に思っている所で、萌が急にすばやい動きで私に向かってきた。




――――ナニ!?攻撃されんの??




防御をとった所で、萌は私をすり抜けて女性の前に立った。


「もう会わないって約束したでしょ!
お嬢!!


――――お嬢っ!?


萌は固まったままの女性を店に引きずりこんでいった。

あっという間の出来事で、私が入り込む隙はなかった。

ただ萌に「帰れ!」と蹴っ飛ばされた。痛い・・・。

しばらく店の外で様子を見ていたが、女性が出てくる気配がなかったので仕方なく帰ることにした。









でも、なんだかヘンな予感がしたんだ。まさかとは思うけど・・・


私はウチに帰ってから、服のポケットから女性からもらった名刺を取り出した。


「・・・・・・ありえねぇ」


名刺を見て、ついそんな言葉を発してしまった。










そして次の日、嫌な予感は当たった。


私が店に行くと、いつもより早く萌が来ていた。


「うぉっ!今日は早いな・・・・どうしたんだ?」


驚く私に全く動じず、萌は笑顔で軽く返答してきた。


「あ、おはよう店長。今日から新人入ったから!」


「そうなんだ・・・・・・・は?」


マテ・・・・・・今萌は何と言ったんだ?


「あ〜昨日さ、店前にいたお嬢・・・っていうかなんちゃってフリーライター?あの人が入ったから」


「おい、何を勝手に入れてんの!?私に相談なしに・・・」


って、フリーライターはなんちゃってだったのかよ!?


「こっちだって事情があるの!いいでしょ?」


「おい、そっち以上にこちらにも事情があるよ・・・」


私の言葉に萌はムッとして言った。


「とにかく、お嬢にここの記事を書かれたくないでしょ?」


「いや・・・私は別に・・・」


そう言って私がコック帽を被ろうとしたときだった。


ガッシャーン!!


萌が持っていたアルミのお盆が床に落ちて物凄い音を立てた。


「え・・・」


コック帽の形を直す手をやめ、萌を恐る恐る見ると・・・案の定おどろおどろしい空気が萌の周りを覆っている。


「ちょ、ちょっと萌ちゃん?」


「私が困るんだよぉ・・・記事にされるとぉぉぉ」


「も、萌ちゃんっっ」


完全に彼女はキレていた。こうなるともう手がつけられない。

なぜに萌はそこまでしてキレているのか?


そこでふと昨夜見た名刺を思い出した。


「も、萌・・・もしかして、あのライターさんと親しいのか?」


恐る恐る、私の予想を言うと萌は顔を引きつらせて言った。


「アイツは私と同級生!同じ大学同じ学科!!」


「ひ、ひぃぃ〜・・・そ、それなら仲良くやればいいじゃん。ね?なんで取材がダメなの?」


萌はムスっとしたまま話し始めた。


「大学時代、私とお嬢は同じクラスだったから1年のころから仲良くなって一緒に大学生活を送っていたの。大学のときはお嬢が何度も同じ言葉を繰り返すから、私も何度も言い返して全く会話にならなかったわ。それに気づくと何か食べてるか寝てるかだし。学校にしばらく来ないで何してるのかと思ったら、アイドルの追っかけで旅に出てたし・・・・・・わけわかんない。それで――――」


で・・・そこから話は長いのだが、そこは省略。


つまり、お嬢は4年になっていきなり「自分は雑誌記者になる」と言い出し大学を辞め、その後は音信不通。
そのまま2年経ってしまい、萌は友人としての縁を切ろうと思ったらしい。
そしてある日、お嬢が人気雑誌の記事を書いているのを知り、見たところどうやらメイド喫茶特集の記事だったらしい。


「萌はお嬢を捕まえるためにメイド喫茶に入ったのか!?」


「それも若干あるかもしんない」


すっかりしゃべりにしゃべってすっきりした様子の萌。イスに座って足をぶらぶらさせている。


さっきまでのあの恐ろしい影はどこへ行ったのか?すごい気分の変わりようだ。


「それで、お嬢を捕まえたと」


「うん、まんまとね。で、ここの記事を書かれない様にするためには、お嬢を巻き込んでしまえばいいのよ!と思ったのよ」


「はぁ・・・捕まえたことはいいとして、なんで記事にされたくないの?別にイヤじゃないんだろ?」


「え〜そりゃ今記事書かれて人気が出ちゃってさ、人が集まってきちゃったら今より何倍も忙しくなるでしょ?人手が足りないのに私だって働くにも限界があるよ」


あ、確かに・・・萌もちゃんと考えているんだな。


「・・・・・・」


私が腕を組んで考えていると、萌はクスリと笑った。


「私のこと見直しているでしょ?」


「ああ、感心した。さすが萌だ」


「フフフ」


萌は私の言葉が嬉しかったのか、少し頬を赤らめて笑った。あ、この状態が一番可愛いんだけどな〜。これこそ萌えだねvv






カランとそこで店の入り口が開いた。


「あ、お嬢。ちゃんと来たんだ」


少し俯き気味のお嬢が入り口に立っていた。私は最初どうしようか迷ったが、お嬢に見られる前に厨房に戻って急いでランチの仕込みを始めた。

仕込みをしている間、2人の会話が聞こえてくる。


「う〜・・・ホントに私にやらせる気?」


「何よ、今更。昨日はあんなにノリノリだったくせに!」


「だって〜あれは〜曲がV6だったから〜」


「いいじゃん。本番だってあれでいくんだから。どうせ暇なんでしょ?」


「どんだけだよっ!私だってやることあるんだってば〜」


「あ〜はいはい。でも今日はとりあえず働いてね」


そう言って萌はホウキとチリトリを取り出し、店内を掃き始めたようだ。ホウキの掃く音が聞こえる。


「早く着替えてきてよお嬢。今回のは私の制服貸すから」


「え〜私も着るの!?」


「当たり前じゃん。着ないでどう接客するの?お客さんがそれを許すはずないじゃん!」


「だって、それ着たらコスプレだよ!コスプレ!!」


「あ〜はいはい。私は毎日コスプレしてますよ!!ほら早くっ、時間ないんだから!!着替えてきたらモップがけして!」


萌の言葉にブーブー言いながらも、お嬢はどうやら更衣室へ向かったようだ。


萌は軽いため息をついてホウキを掃いている。


私はボウルを持ったまま、カウンターから萌の方へ顔を出した。


「おい、萌。大丈夫なのか?服のサイズ」


「え?店長・・・ああ、私のサイズとお嬢は変わらないから大丈夫。着れるって。あ、後でお嬢の制服頼んでおいてね」


「あ、ああ・・・わかった。あ、それで・・・」


「何?」


「あの、お嬢に私は紹介しなくていいからな。店長はいるとだけ伝えてくれ」


「え?何で?これから紹介しようと思ったのに」


そう言われて、私は顔を少し引きつらせてしまった。今お嬢に会ったらなんて言われるか・・・というか、萌にあのマヌケな出来事は知られたくない。と、そこでいいごまかし方を思いついた。


「焔に会わせてくれるなら、紹介を受けるけど・・・」


萌はその言葉に顔をしかめた。これで、「イヤ」言われて済むだろう。


「あ、変態」


「な、ナニ!!」


また萌に変態と言われた。予想と違う!!
私は落ち込むところを見られそうになり、慌てて持っていた泡だて器をボウルの中で思い切りまわす。


「萌、エプロンの後ろのリボンが縛れない」


と、そこへお嬢が着替えてきた。後ろにはエプロンを止めておくためのリボンがあるのだが、お嬢はそれを結ぶのが苦手らしい。普通のエプロンと比べてかなり長くて結びやすいことこの上なしだと思うのだが・・・。


「うわ。これ縦結びじゃん!」


萌はそう言って、お嬢のリボンを結びなおしてあげていた。



その後焔も来て、3人が揃った。どうやら焔もお譲と仲良くなったみたいで会話をしている。

その中に入れない私、店長は少し仲間はずれにされた感じがして若干凹んだ。


「店長は変態だから、会わないほうがいい」


と、お嬢にまで言っていた。私が聞いているのを確実に萌は知っているはずだ。


ホントに萌は・・・・・・・どこまでもSっ気のあるメイドさんだな。







「いらっしゃいませ〜」


ランチは好評で、毎日昼の12時から14時は待ちが出るほどの繁盛振りになった。


1ヶ月もたつと常連を見つけたりする。ご主人様もそうだが、ランチだけにくるOLなんてもの結構目に付くもんである。

だってメイド喫茶のランチだぜ?ランチで安いとしても、そうそう常連としてメイド喫茶に来ないだろう・・・。


だが、私の思っている以上にこの店は居心地がいいのだろうか。ほとんど毎日ランチに来るのだ。


「はぁ、マジだるい。なんで私があんな書類を持ってダラダラ行かなきゃいけないの。あんなの自分でやればいいじゃん」


「ね〜そうだよね。私なんてお茶濁ってるって上司に文句言われてさ。ありえなくない?自分で入れればいいのに、それでも私に頼んで来るしね」


「信頼されてるんだよ。ま、頑張れって」


会話に耳を傾けるとだいたいそんな感じだ。ま、最近のOLはいろいろ大変のようだ。

私はそう思いながら、必死に注文されるランチにあたふたする。一人で厨房はマジでありえないほど忙しい。ここ最近は特にね。

だが、まだ以前と比べるとメイドが増えたせいか楽になった部分は多いと思う。特に萌が。

そのうち厨房にも一人増やそうかな・・・。





そう思っているうちに、ランチ終了の時刻が迫ってきた。

さて、今日の夜には焔のお披露目会があるんだったな。いつもより厨房の方は楽で済みそうだ。




・・・・・・ん?そういえば、お嬢ももしかして今日出るのか?

なんだか一気に不安になってきたぞ。












つづく。