「だめだめっ!もう一度!!」
店内にダメ出しをする萌の声が響く。
今日は月曜で休みのはずの店内なのに、なぜかそこに萌と焔がいるのだ。
しかもメイド服ではなく・・・・・ジャージで。
「いくよ。ここでワン、ツー、スリー、フォーでくるっと回って軽くジャンプ。そうそう、もっと首をかしげて〜・・・」
手拍子と共にカツカツと靴のステップの音と、キュッと床のすれる音がする。
そう、これは言うまでもなくダンスの練習をしているのだ。
しかも萌の指導でっ!
私は休みだったのだが、店内を開けろと朝から萌の電話があったので仕方なく重い体を起こして店にやってきたわけなのだが・・・まさかこんなことだとは・・・
ウチでやってくれぃ。もしくは公園で・・・。
ふあぁ〜欠伸が出る・・・。
「だから、もうちょっと腕を上げて〜こう回して!こうっ!」
「は、はいっ!!」
そんな萌の熱血指導にタジタジな焔だった。
「メイド喫茶へようこそ!」(仮)
第3話
私はあまりにも暇だったので、キッチンにて2人分のお昼を作って店を出てきた。
どうせ私がいても何にもできなんだからいいじゃん。
で・・・・・・今更なのだが、私はまだ焔と直接話をしていない。
面接だって、ホールの指導だって全て萌にまかせっきりだからだ・・・・・というより、なぜか萌が私を焔に近づけさせないようにしているのだ。
何でだろう?普通、店長とコミュニケーションは絶対なんじゃないだろうか?私、何か悪いことしたか?
ふらふらと向かうその先は、なぜかゲーセン。あれ?本屋に向かってたはずだったんだけど・・・
一度足を止めて少し考えてみる。
本屋へ行ったとしても、特に読みたいと思う本はない。あ〜でも、読みたいというよりもう少し経済のこととか、経営について勉強するべきなんじゃないのか・・・・・・?
じゃあ〜とりあえず・・・本屋へ行って、それからゲーセンに行けばいいんじゃないの?よし、それで行こう。
一人で納得し、思わず右のこぶしを左手の平にポンとおいてしまった。
ひらめいた☆みたいな古いこの発想行動法はありえねぇ・・・。
周りに人がいて、それを見られていたら最高に恥ずかしいんじゃないですかこれ。
みたいな気分でふと前を見たら、次の瞬間私は空を仰いでいた。
ありえねぇ・・・・。
ドスンっ!!
「わぁああっっ!!」
その音と声と共に空を仰いでゆっくりと後ろへ倒れていく私。
ナニその叫び声?私じゃないし。っていくか、ナニコレ?あまり感覚ないし・・・。
そういえば・・・何か体当たりしてきたような気がするんですけど。
気がつけば、私は路上で倒れていた。
通り的に人通りはあまりないので、見物人はあまりいないようだが・・・それでも何人かいることは話し声でわかる。
そして何か気になる目線。
なんかやばくねーか?この状態。
そっと目を開けてみると、少し涙目で私を見つめる女性がいた。
何見てんですか〜。私は見せ物じゃありません。金取りますけど・・・。
「だ、大丈夫ですか?」
その女性は私が目を開けたことで少し安心しているようだ。あれ。もしかして寝すぎた・・・っていうか気絶してたの?
「あ・・・え・・・ううっ」
言葉を発しようとしたが、あまりに頭が痛いのでうまくしゃべれない。
あ〜ホントならこの場から立ち上がって「なんでもね〜よ」と立ち去りたい!!まじでありえねぇ〜。
「救急車を呼んだのですぐに着くと思いますけど、それまで辛抱してくださいね!」
救急車かよ!!すっげ〜初めて乗るよ!って感動している場合じゃねぇ!!
これで入院になったら店がっ店がっっ
私は思わず首を横に振った。行きたくねぇよ〜逝きたくね〜・・・・・・・
女性は心配そうに私を見ていた。たぶん、次にいう言葉はこれだろう。
「頭を強く打ち付けているみたいですし、きちんと見てもらったほうがいいと思いますよ」
そう言われようとなんだろうと、私は救急車に乗っていくわけにはいかん!
店でダンスの練習をしている2人を置いて・・・入院だなんて・・・・・・
「あの・・・何か悪いことでもされた方なんですか?」
はいっ!?
思わず、私は目を見開いて彼女を見る。
「何か知られたくないことがあるとか・・・」
オイオイ・・・何を勝手なこと言ってるんですかこの人は。ありえねぇ!
ほら、周りの人もなんだか知らんが変にコソコソ話し出したぞ!私は無罪だ。何もしてねぇ!!
と、そこで救急車のサイレンが遠くから聞こえてきた。どうやらこちらに向かってくるようだ。野次馬たちが救急車のサイレンが聞こえる方を見ている。
そして、だんだんと音が近づき、私のすぐ隣の車道に停車した。
バタン。という音がいくつかして、救急隊員・・・と言っても消防士だよね〜が、私の顔を覗き込んできた。
「意識は・・・ありますね」
私がうなずくと、その消防士の人は別な消防士に合図を送る。すぐさま担架が運ばれてきて、私はあっという間に担架に乗せられた。
「言葉はしゃべれますか?」
「あ・・・は・・・」
なんだかやはり思ったことが口から出ない。これは、やばい。
「脳震盪を起こしてますね。ま、一応近くの病院に運びますね」
脳震盪か・・・頭に傷はないようだな。よかった。
「だれか付き添いの方は?」
と消防士が周りにいた人たちに声をかけた。
あ〜・・・これはいないだろうと思ったとき、誰かが乗り込んでくる音がした。
「え?店長、路上で倒れて脳震盪起こしたの?まじダサくない?」
「い、いや・・・別に起こしたくて起こしたわけじゃないんだって。いきなり人が体当たりしてきて」
「え〜しかも相手は女性でしょ?ありえなくない?ねぇ、焔どう思う?」
「店長が女性にぶつかって倒れるなんて弱〜い」
弱〜い!弱〜い!弱〜い! (エコー)
「ありえねぇ!!」
ガバッと起きるとそこは・・・病院の一室でした。どうやら救急車内で寝ちゃったらしいぜ?(苦笑)
頭が痛かったのも今はそれほどでもなく、どうやら一時的なものだったらしい・・・。
はあ、大事な頭だもん。この天才がこのせいで頭が悪くなったらどうしてくれるんだよ!(自意識過剰)
で?さっきから、ひざの上が変に重いんですけど?
ふと、下を見ると・・・・・なんと女性がうつぶせに寝ているじゃないかっ!!
どうやら、この女性・・・私にぶつかってきた人のようだ。
あの涙目で私に声をかけてきたあの女性。
あ〜なんかそんな感じがしてきた。で、なんでそのぶつかってきた人が私の看病もどきをしてるんじゃ?しかも看病どころか寝てるじゃないか。
はぁ・・・とため息をつき、私はその彼女を揺らして起こした。
「はっ!」
彼女は慌てたように起き上がったが、なぜだか気になる口元。完全によだれをたらして寝てたじゃないか!
「あの・・・」
私が声をかけたとき、彼女はなんとか目を覚ましたようで、慌てて口を袖で拭き立ち上がった。
そして思い切り頭を下げてきた。
「本当にすいませんでしたっっ!!」
「え?」
それは、寝てしまったことに対して?それともよだれ?
「私の不注意のせいで、ぶつかってしまい・・・すいません。慌てていたもので・・・」
「あ〜・・・そういうこと。あ、えっと走ってぶつかったの?」
「はい。あの。えっと・・・私はこういうもので・・・」
そこで、彼女は自分の名刺を差し出してきた。
えっと何々?フリーライター?あ、ライターって雑誌とかの記事を書く人か・・・
「ん〜・・・で、ここにいて取材はいいの?」
「あっ!!」
「あ〜・・・・・・私にぶつかったことでいっぱいいっぱいだったのね」
「はぁ・・・すいません」
「いやいや、私に謝るなよ・・・」
「その・・・あの場所のすぐ近くの喫茶店の取材を申し込もうと思ってたんですけど」
「ふぅ〜ん・・・喫茶店の取材ねぇ」
名刺をぴらぴらさせながら私は適当に相槌をうつ。
「はい。最近結構流行じゃないですか。メイド喫茶。その取材です!」
「そうなんだ。あ〜そうだよね。流行っているよねメイド喫茶。あの辺りじゃ一軒しかないじゃん?あのシィ〜・・・・・・っっ!!?」
ヤバッ!何だ!まさかウチの取材に来ようとしたのか!?
彼女は手帳を開き、うなずきながら答えた。
「そうですね〜。えっとCITメイド喫茶っていうところです。詳しいんですね〜」
「は、ははは〜・・・ま、まあね」
そこの店長だからね。
「やっぱり常連なんですか?」
「え?いや、まあそういうわけじゃないけど・・・」
店長だから・・・そりゃ毎日行ってるよ。
「あの喫茶店て夜までやってるんですよね。えっと、今の時刻はまだ16時だから・・・」
「あ〜・・・今日は定休日だから無理だよ。月曜は定休だって決まってるんだよ」
「へぇ〜・・・詳しいんですね。やっぱり常連ですか?常連ですか?」
そんな繰り返さなくてもいいだろ!?
「いや、あの辺りに住んでるから・・・それにあんな喫茶は一つしかないから目立つんだよ」
「そうですよね〜。一軒しかないんですもんね。なんでここでやろうと思ったんだろ・・・」
「あ〜・・・・・・っっと。それは知らねぇな」
ヤバイ。それは、意外とウケると思ったから・・・・と言いそうになってしまった。
「じゃあ、取材の申し込みは後日改めて行くということにします」
「それがいいんじゃないの?」
たぶん、断るだろうけど・・・。
「あっ、そうだ。今回、慰謝料として私に治療代払わせてください。ホントに申し訳ないことをしてしまったので」
「いや、私もぼーっとしてたから、こちらの不注意もある。ま、たいしたことないし、大丈夫だよ」
自然となぜか私は彼女に敬語を使っていない。なんだこれ。
「いえいえ、そういうわけにはいかないので・・・」
とかなんだとかで結局、彼女が払ってくれた。ま、私が保険証を所持していたこともあってとても安く済んだが。
「ホントに今日は申し訳ありませんでした。以後気をつけます」
「うん、それはごもっとも。じゃあ、私はこれで・・・」
「はい、さようなら!」
「・・・・・・」
病院前で、私と彼女は別れた。たぶん、二度と会わないんじゃないかな〜。取材だって断るし。
雑誌に載らなくても、結構今のままで十分だし・・・これ以上忙しくなっても私の身が持たないだろうし。
残念だが、彼女にはあきらめていただくしかない。アデュ〜。
と、私はなんとか店へ戻ってきた。まさか17時になった店内にはいないだろ。
だらだらと裏口から戻ってくると、なんだか話し声が聞こえてきた。
え。まだいるの?
「ホントにすごいね。もう私今度から焔様と呼ぶわ」
「いえいえ、そんな・・・今までどおりで・・・いえ、むしろ普通に焔と呼んでください」
「焔ちゃんに呼びつけなんてできないよぉ〜」
はぁ・・・どうやら、ずっと話し込んでたみたいだな。ま、こういうしゃべる機会があった方がいいだろ。
コミュニケーションは大事だもんな。
流し台を見ると、その横に丁寧に洗って置かれている食器。これは昼に私が2人に作った昼飯に使った食器だ。
食べ終わった後、2人で食器をきちんと洗っておいてくれたのだ。えらい。店長感動だよ。
「そういえば・・・・私、まだ店長と会ったこと無いんですけど・・・・・・・・」
そんな声が聞こえた。たしかに、焔と私はまだ会ってないぞ!今会うべきかこれ?今会うか?
手にはたまたま買ってきた食材とカップゼリー。
これ持って2人のもとへ出て行ってもいいんじゃないか?このタイミングで。
ど〜・・・・・・・・んと出ようとしたところで、萌がさらっと言った。
「あ〜いいよ。あの店長に会ったら、きっと焔はやばいよ」
ホールに向かう足を止める私。
「えっ!何がやばいんですか?」
焔の可愛い声が若干震えているのは気のせいか?
「ん〜・・・・表現しにくいな・・・。なんて言うの?一言で言うと・・・・・・変態」
変態変態変態... (エコー)
私の頭の中に萌のキッツイ一言が響いた。
そして真っ白に燃え尽きた私は、カウンターに2人分のカップゼリーを置き、その場を立ち去った。
変態扱いされていたなんて・・・萌よ。私はこれからどう生きていけばいいのだ?
まぁ確かに焔はすっごく可愛いと思っていたよ。一回声に出して萌に言っちゃったけどさ。
そこまで言わなくてもよくない?ねぇ、別に可愛いなんて普通に言うことじゃん。
別に萌え〜〜〜〜って叫んだわけじゃないじゃん!ハァハァっ言ってないじゃん!!
なんだか萌の「変態」という言葉だけでこんなにダメージを食らうなんて・・・ああ・・・明日からどうやって生活してこう。
裏口からフラフラと家に向かおうと喫茶店の正面口を通ろうとしたとき、誰かが窓から店内を覗いているのを発見した。
オイオイ・・・俺よりも陰険な変態がいるじゃないか!これは警察に訴えるべきだぜおい。
萌と焔の様子を今まで見てたのかオイ!そんなの私がゆるさねぇ!!
「おい!そこで何してんだ?」
私は思っていたより大きな声を出していたようだ。覗いていた相手はビクッとして、ふと私の方を見た。
「っっ!!?」
「あっ!」
その人物を見て、私は思わず声を上げた。
つづく。